DC/DC コンバータの効率と損失を測定する時の注意点 Part 1/4

 DC/DC コンバータの効率は、「η=出力電力÷入力電力」です。この時、「入力電力=出力電力+損失」 となります。 DC/DC コンバータで発生する損失は高速でスイッチングすることに依るFET スイッチでのスイッチング損失、FET、インダクタ、パターン配線の持つ抵抗に流れる電流による I2R 抵抗損、インダクタでのヒステリシス損などによる交流損、電源IC 自身の回路の自己消費電流による損失など様々な損失があります。電源変換効率を上げるには、電源回路のどの部分で損失が発生しているかを分析し、各々個別の対策が必要となります。しかし、そもそも入出力電力が正しく測定できているかに注意する必要があります。

一般的に行われている効率の測定
図1 DC/DC コンバータの効率測定  効率測定を行う時によく行われる一般的ですが、実はとても荒っぽい測定法は、図1 のように安定化電源と電子負荷を接続し、この状態で各機器の表示機の値を読み取り、 効率=(電子負荷表示電圧×定電流設定値)÷(安定化電源設定電圧×安定化電源出力電流) で計算して効率を求めるものです。しかし、安定化電源や電子負荷の表示する電圧や電流はどこの電圧で、どんな電流値を計測したものでしょうか?安定化電源の出力電圧と DC/DC コンバータの入力電圧、 DC/DC コンバータの出力電圧と電子負荷の測定電圧は同じ電圧でしょうか?数 10cm のワイヤーが持つ抵抗による損失はどこに計上されていますか?数% の誤差は簡単に発生してしまいます。またより高精度に測定しようとして電圧計と電流計を使用して計測を行った場合、更に誤差を大きくしてしまう場合があります。

平均電流と実効電流
 電圧や電流を測定する時、変動の無い直流電圧や直流電流ならどんな測定を行っても、1V は 1V ですし 1A は 1A です。しかし DC/DC コンバータでは入出力に電圧にはリップル電圧があるために 直流電圧+リップル電圧による変動する電圧ですし、流れている入出力電流もコンデンサで平滑はされていますが交流の変動成分を持った電流が流れています。電圧に実効電圧と平均電圧があるように電流にも実効電流と平均電流があります。パルス状の電流が流れる回路で発生する損失を部分ごとに分けて測定する時、平均値を使わなくてはいけない部分と実効値を使わなければいけない部分があり、間違えると計算結果は全く異なってしまいます。

パルス電流の簡単なモデル
図2 パルス電流のときの平均値と実効値 10V の安定化電源から 9.9Ω の負荷にデューティ 10% で電流を流す図 2 の様な回路を考えます。スイッチに使用した FET の ON 抵抗を 0.1Ω とします。スイッチがはいると流れる電 流は電流=電源電圧÷(スイッチ抵抗+負荷抵抗)=10V÷(0.1Ω+9.9Ω)=1A となります。10V の電源からは 1A の電流が 1/10 の時間だけ流れ出します。供給している電力 Pinは10V×1A=10Wの1/10の時間だけ供給されるのでPin=10Vx1Ax10%=1W となります。負荷抵抗で消費される電力 Po は Po=(1A×1A×9.9Ω)×10%=0.99W となり効率は Po/Pin なので η=0.99W/1W=99% となり、スイッチで発生する損失は Ploss=(1A×1A×0.1Ω)×10%=0.01W で入力電力 1W の 1% となります。では 1A でデューティ 10% の電流の電流値を計算してみると、平均電流は 1A×10% の 0.1A となりますが、実効電流は 0.316A となります。測定に使用した電流計が平均値型の場合は 0.1A、実効値型では 0.316A と、異なる数値となります。平均電流を使用して計算すると、入力電力は Vin×In=10V×0.1A=1W と正しい値となりますが、スイッチでの損失を I2R で計算すると I×I×R=0.1A×0.1A×0.1Ω=0.001W となりますし、負荷抵抗では I×I×R=0.1A×0.1A×9.9Ω=0.099W になってしまいます。では実効値を使用すると、入力電力は Vin×In=10V×0.316A=3.16W となってしまい非常に大きくなってしまいますが、スイッチでの損失は I×I×R=0.316A×0.316A×0.1Ω=0.01W と正しい値となりますし、負荷抵抗でも I×I×R=0.316A×0.316A×9.9Ω=0.99W となりますので正しい値となります。電流が変動する回路の損失や電力を計算する場合には場所に応じて平均電流と実効電流を使い分けて計算しないと正しい計算ができなくなってしまいます。では電圧を測定すると、供給源の電圧は直流なので実効値でも平均値でも 10V となりますが、負荷抵抗の両端で発生する平均電圧は 0.99V ですが実効電圧は 3.13V となります。負荷抵抗で消費されている電力は実効電圧×実効電流=3.13V×0.316A=0.99W となりますが抵抗負荷に平均電圧や平均電流を使用すると値が大きく違ってしまいます。パルス電流が流れる DC/DC コンバータでは平均値と実効値の意味をよく理解して測定を行う必要があります。

電流計による測定
図3 電流計による電圧降下と測定電圧 電流測定は卓上型のマルチメータやハンディタイプのデジタル・テスタで測定されます。しかしこれらの測定器は内蔵された電流検出抵抗に発生する電圧を測定しています。例えば FLUKE 87V の内部検出抵抗は 10A レンジでは 0.1Ω で、200mA レンジでは 2Ω あります。200mA レンジでは 200mA 流すと 0.4V の電圧ドロップが発生し、1.0V/10A の電源の出力電流を測定しようとしても内部抵抗が 0.1Ω あるので図 3 では 1.0V の出力をテスタで短絡しても 10A しか流れないという事になります。そして、これらのデジタル・テスタやマルチメータはほとんどが平均値しか測定できません。FLUKE 87V は真の実効値を測定できるとの記載がありますが、AC の測定だけでパルス(直流+交流)の場合は平均値しか測定できません。 DC/DC コンバータは内部ではスイッチングによりパルス化された電流が流れていますが、入出力のコンデンサにより平滑されていますが、直流電流+リップル電流で完全な直流電流とはなっていませんし、テスタの内部抵抗による電圧低下を考慮した測定を行う必要があります。効率測定時の入力電流と出力電流の測定は平均電流で良いので、平均値型電流計で測定できます。通常のテスタの速度は数 10Hz 程度で、スイッチング周波数のリップルを含む電流を正しく測定できるかが問題となりますが、多くのテスタが 2 重積分型による測定を行っており、低速でもその間の値を積分して平均値化した値を測定しているので、平均値としては正しい測定ができている事になります。 放熱設計などで回路でのI2Rによる発熱を算出する場合には実効値を求める必要があります。FLUKE 289 などの一部のテスタで AC+DC の真の実効値が測定可能と書かれたテスタはパルス波の実効値を測定できますが、帯域が 100KHz 程度しかないので、スイッチング周波数が高速化している DC/DC コンバータのパルス波形の実効電流値の測定を高精度に行う事はできません。 

(Part 2/4 に続く

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