図:6 MHz スイッチングの出現

7 - 6MHz スイッチングの出現 − その背景とメリット

これまで、スイッチング電源の高周波化は小型化が目的でしたが、6MHz の高速スイッチングの出現の裏にはもっと深い理由があります。


6MHz 時代の始まり

スイッチング電源の歴史は高周波化の歴史でもあります。スイッチングを高速化することでインダクタやコンデンサに小さなものが使え、全体を小型化できるからです。出力が数百 mA クラスの降圧コンバータの場合、スイッチング周波数は 1 ~ 3MHz 程度まで進んでいました。そうした中、テキサスインスツルメンツ(以下 TI)から 6MHz のスイッチングを実現した「TPS62601」が昨年リリースされました。携帯機器への搭載を意識した製品で、実装面積の大幅な縮小を果たしていますが、6MHz のスイッチングは小型化だけが理由ではありません。また、制御手法などにも高速スイッチングを実現するための新しい技術が盛り込まれています。

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携帯機器の電源事情

最近の携帯機器は殆どが単セルのリチウムイオン電池を使用しています。携帯機器ではこれまで電池の終期電圧を 3.3V 程度として設計するのが一般的でしたが、ここへ来て 2.3V 程度に下がるまで使い切る例が出てきました。

一方で回路側の電圧は 1.8V に移行しています。その場合、入力を 2.3V とすれば入出力の電圧差は 0.5V しかありません。電圧確度も厳しくなっています。例えば 3.3V に対して± 5 %で 165mV ですが、1.8V では 90mV ということになり許容変動幅も小さくしなければなりません。特に負荷変動などに対して高速に応答しなければ確度を維持できません。つまり、これからのポータブル機器では入力 2.3V で出力 1.8V で高速の応答特性を持つ電源が望まれます。

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インダクタの限界

図1:インダクタ電流の上昇速度スイッチング電源の応答性を決める要素は二つあり、ひとつはインダクタです。スイッチング電源(同期整流回路)ではインダクタを通して電流を供給するので、出力の電流応答はインダクタの特性で決定されます。インダクタンスを [L] とすると、短期的な電流 [I] は時間 [t] に対して I=t*V/L ・・・・・ (1)となって、V/L の傾きで直線的に上昇します(図1)。これを超える電流供給は原理的に得られないわけで、負荷の急変などで電流が足らない分は出力のコンデンサを大きくするなどして補うほかありません。(1)式は入出力間電圧が大きいほど、またインダクタンスが小さいほど高速な応答が得られることを意味しています。

具体的には入出力間電圧 1V で 1μH のとき 1A/μs ということになり、従来の電源では 1 ~数μH のインダクタが使用されています。ところが、前述のように入出力間電圧が 0.5V 程度まで小さくなるとそれに合わせてインダクタンスも 0.47μH など従来よりも小さくしなければ高速な応答は得られないことになります。しかしながら、単にインダクタンスを小さくするだけではリップルが増えてしまうので、併せてスイッチング周波数を高くする必要があります。結果として、出力電流が数百 mA で入出力間電圧が 0.5V と小さい場合には、高速な応答を得るために少なくとも 5MHz 以上の高速スイッチングが必要になります。

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負帰還の限界

電源の応答性を決めるもうひとつの要素は負帰還ループの周波数帯域です。通常のレギュレータでは出力をフィードバックしスイッチングのタイミングを制御しているので、系全体の応答性は負帰還の帯域幅に支配されます。そして負帰還の帯域幅は通常スイッチング周波数の 20 %程度に抑えられます。1MHz 超の電源では微分スイッチによるフィードフォワード制御などによる応答の補償なども採られていましたが、5MHz 以上のスイッチング速度に見合った広帯域の帰還を実現しようとすると、消費電力の大きな超広帯域の誤差アンプが必要となるうえ、浮遊容量なども大きく影響するようになるため、安定したループ特性を得るのも難しくなります。古典的な負帰還制御のみによる電源は 3MHz 程度までが実用範囲と言われています。

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実装面積は 13mm² 以下

TI の TPS62601 は、こうした背景のもとで出現した 6MHz スイッチング 500mA 出力の FET 内蔵型降圧電源です(図2)。自身も 6pin の CSP(0.916 × 1.290 mm)と小さいうえ、インダクタは 0.47μH で出力コンデンサも 4.7μF と小さいため、実装面積は 13mm² 以下と極めて小さくなりました。写真は TI の従来製品と実装面積をそれぞれの評価基板で比較したものです。インダクタが 0.47μH になったことで低背チップタイプが使え、実装高も低くなるほか、実装面積が小さいためノイズの放射ループ面積も小さくなります。

図2:TPS62601内部回路構成と標準接続

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コンパレータによるオンオフ制御

TPS62601 は、出力電圧とリファレンス電圧を入力とするコンパレータの出力でスイッチを直接オンオフする独自の制御方式を採用し、負帰還によるループ制御の限界問題を解決しています。TPS62601 は全体としてリングオシレータを形成しており、周波数(周期)補正回路により 6MHz に制御されています。入力電圧の低下と負荷電流の増大により ON デューティが大きくなりますが、最小 OFF 時間による制限値に達すると自動的に周期を延長させ、必要なデューティ比を確保するために周波数が低下します(図3-A)。消費電流が小さい場合は、間欠動作による低消費電力モードでの動作も選択可能です。

出力電圧は 1.80V 固定で補正値が EEPROM に書き込まれており、高い確度が維持されています。高速の電源ではスイッチ(FET)の損失が増えがちですが、TPS62601 は TI の 0.25μm リニア Bi-CMOS プロセス [LBC7] が採用されており低オン抵抗と低寄生容量を実現したことで 6MHz でも高い効率を得ています(図3-C)。

図3

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