図:デジタル電源の実現法 [1]

8 - デジタル電源の実現法 [1]

アナログでは実現できない機能や性能をもたらすデジタル電源は、理論の構築や研究の対象として採り上げられながら、永い間、実用へのハードルは高いとされてきました。しかし、ここへきて対応するデバイスや開発ツールなどが急速な充実を見せており、デジタル電源は実用の時代に突入しました。


電源の高度化要求が止まらない

電源回路はこれまでアナログの牙城として発展を続けてきました。しかしながら、デジタル化の波は電源にも押し寄せています。電子機器が複雑化し搭載される電源の数が増加の一途をたどるいっぽうで、低消費電力、高速応答、高機能など電源に対する高度化要求は留まることが無く、既存のアナログ技術では対応出来ない部分も出てきているからです。

図1:各電源には今以上の機能・性能向上が要求されている <図1> はテレコム機器の例ですが、全体で消費される電力は膨大になり、回路の低消費電力化と電源の高効率化が進められています。しかし、さらなる低消費のためには、負荷の状態によって電源の特性を細かく変えるといったことまでしなければ対応が難しくなってきました。最近では、より優れた効率や応答性・安定性に加え、部品の劣化や故障などに際し素早く的確に対応できるなどシステムレベルでの高機能化も求められます。こうした多様化要求に応えるにはデジタル化以外に手は無く、電源はデジタル制御の時代に突入しています。実際、デジタル電源はバスコンバータなど入力に近い部分から導入が始まり、現在では POL にも適用する例が増えています。

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電源の何がデジタルになるのか

図2:制御部分をデジタル化する 最近の電源IC には I2C や SPI などのデジタルインタフェースを備えるものが多くなりました。しかしながら、それらは機能の一部をデジタルで設定できる電源であって、内部の制御は従来からあるアナログのフィードバック回路です。これに対してここで言うデジタル電源は出力の検出から制御、そしてパワーステージのスイッチ駆動に至る一連の制御機能をデジタルで処理します <図2>。デジタル化することでアナログでは難しかった様々な動作を実現しますが、スイッチング電源であることに変わりはありません。

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デジタルならではのメリット

図3:デジタル電源のメリット<図3> に電源をデジタル化することによるメリットを整理しました。例えばアナログの電源はコンデンサや抵抗など部品の値で負帰還の動作特性が決まりますが、デジタル電源ではソフトウエアでパラメータを決められるのでバラツキや経年変化が無く保守も不要という大きなメリットがあります。また、デッドタイムなど細かなタイミングを最適化して特性を上げることもできます。デジタルで記述することさえできれば任意の特性を実現でき、状態によって制御特性を変えるノンリニア制御や種々の現代制御などアナログでは電源に適用するのが難しいとされてきた制御方式も導入できます。また、ホストコントローラや周囲の電源ユニットとの間で双方向通信が可能になり、種々の連係動作やシステム的な保守管理も可能です。

設計面では負担が増すように思えるかもしれませんが、デジタル化することで動作の検証や変更が容易になるため設計全体の効率はかえって向上し、共通プラットフォームによる設計スタイルも採り入れることができるので、ハードとソフトの設計同時進行や類似する電源のハード標準化なども可能になります。

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メリットの検証

図4:ノンリニア制御による高速応答の実現例 デジタル化によるパフォーマンス向上を具体例で検証してみましょう。

<図4> は負荷の急変に対する応答性をリニア制御とノンリニア制御とで比較したものです。青色の線はリニア制御としたときで、従来のアナログ制御に相当します。一方、赤色は負荷変動に対応して負帰還の特性を動的に変え、大きな負荷変動に対しても速い応答が得られるよう(ノンリニアに)制御したときのものです。ノンリニアにすることで、応答性が格段に良くなるのが分かります。負帰還ではループゲインが高い大きいほど応答性は高まりますが、安定性に関してはゲインが小さい方が望ましいため両者の兼ね合いでパラメータを決定します。その場合、アナログ(リニア)回路では特定の動作状態に合わせて部品定数を固定せざるを得ません。これに対してデジタル制御ではソフトウエアによって定数を任意に決めることができるので、動作状態に合わせてダイナミックな変更が可能です。

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デジタル化の環境が整う

デジタル電源は、理論構築や研究の対象として以前から採り上げられながら、永い間、実用へのハードルは高いとされてきました。ここへ来て実用化が急速に浮上してきた背景には関連するデバイスやツールの充実があります。電源をデジタル化する場合、サンプリング(A/D)- 制御演算 - 出力処理(PWM)という一連の処理をスイッチングの 1 期間内に終了しなければなりません。さらに、極めて高い時間分解能を必要とします。こうした要件を満足するデバイスの出現が待ち望まれていたわけですが、テキサスインスツルメンツ(以下 TI)からは 1MHz のスイッチングで 150ps の分解能を持つデジタル電源を実現できる製品が発売されるなど、デバイスに対する懸念は払拭されました。

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アナログの知識でデジタルを設計

図5:アナログ(連続系:S平面)からデジタル(離散系:Z平面)へいっぽう、これまで電源設計を担ってきた技術者の多くはアナログのエキスパートです。デジタル化する過程の理解やソフトウエアの構築に抵抗があるという側面も否定できません。しかしながら、既存の電源制御は負帰還ループを開けばフィルタ回路に他なりません。つまり、電源のデジタル化はアナログのフィルタを IIR 型のデジタルフィルタに換えるのと同じです。具体的にはまず、パワーステージを設計し、周波数軸でポールとゼロを配置してボード線図に描き、伝達関数として S 平面上に表し(数式化し)ます。ここまでは従来のアナログ設計と何ら変わりません。次は S 平面(連続時間系)から Z 平面(離散時間系)へ変換ですが、ここがひとつのハードルでした <図5>。しかしながら、この部分でも上記のデジタル電源デバイスに合わせた開発ツールが供給され、容易にデジタルのパラメータを得てデバイスに実装できるようになりました。実際、ボード線図上でシミュレーションしながら設計できるなど、ほとんどアナログの知識だけでデジタルへ置き換えできます。

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