図:デジタル電源の実現法 [2]

9 - デジタル電源の実現法 [2]

アナログでは実現できない機能や性能をもたらすデジタル電源は実用の時代に突入しています。対応するデバイスやツールなども急速に充実し、開発のハードルは低くなりました。実際に電源をデジタル化するにはどんな手順を踏めば良いのか、順を追って見ていきます。


デジタル電源は「活用する」時代へ

デジタル電源は、これまでのアナログ回路によるフィードバック制御を捨て、出力の検出から制御、そしてパワーステージのスイッチ駆動に至る一連の制御機能をデジタルで処理する電源です。これを理論構築から始めてハードウエア・ソフトウエアをゼロから設計するのは容易ではありません。しかしながら、デジタル電源は理論や研究の時代を終え、既に実用のフェーズに入っています。デジタル電源を創り出すのではなく、デジタル電源を活用する時代を迎えていると言っても良いでしょう。

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二つのソリューション

図1:デジタル電源を実現する二つの方法と対応製品群 例えば、テキサスインスツルメンツ(以下 TI)では、デジタル電源に二通りのソリューションを揃え、実用に供しています。<図1> にその概要を示しました。両者の違いは制御系の処理方法にあります。ひとつは DSP に高速の ADC と PWM 機能を積むもので、汎用性が高く同期整流・PFC・ブリッジなど種々の電源回路に適用できます。また、処理の全てをソフトで賄うため、従来とは異なる制御法の導入など機能のフレキシビリティに富むのが特長です。性能面でも F28xxx は、60 ~ 120MHz の高速演算コアを搭載、80 ~ 267 ns の高速 AD と合わせて 150ps 分解能の PWM を実現します。

もうひとつのソリューションは、フィードバック制御の処理をハードウエアで実装したデジタル電源専用の ASSP(Application specific standard product)で、TI が [ Fusion Digital Power ] の名称で展開している製品群です。ループの位相補正を行うデジタル補償器の係数を与えるだけで設計が完了し、そのための専用ツールも用意されているので、設計の負担が軽く、デジタル電源を短期間で実現できるのが最大のメリットです。搭載されている専用回路チップは 3pole/2zero の帰還回路に対応し、スイッチングは最高 2MHz、250ps の高分解能を有します。

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Fusion Digital Power の適用

図2:UCD9240の機能ブロック 以下は Fusion Digital Power の具体的適用例です。
UCD9240 は±1mV の出力精度で 4 系統のフィードバックループを制御できる製品です <図2>。7 × 7 mm の QFN パッケージに、ARM7 TDMI コア、32 × 32 bit 乗算器、8K × 32bit フラッシュメモリ、12bit × 12ch ADC や各種タイマを搭載し、各出力のソフトスタート/ ストップやトラッキング、オンラインの補償器チューニング、ノンリニア制御、動作モニタなどの機能があります。ここでは、UCD9240 用の評価ボードと開発サポートツールである[ Fusion Digital Power Designer ]を使って 4 相のデジタル制御電源を構成した例を採り上げました。これらは TI からセットで供給されています <図3>

Fusion Digital Power Designer は、電源制御パラメータの演算、フラッシュメモリ書きこみ、制御電源への制御命令、モニタ機能を持つデジタル電源専用の設計ツールです。入出力電圧や使用する LC の値などアプリケーション条件と pole と zero の周波数を入力するだけでデジタルのパラメータが導出されます。従来のアナログ設計と同じ感覚でボード線図や出力のインピーダンス周波数特性、応答波形などを見ながら設計し、パソコン上で動作をシミュレーションできるので便利です。 <図4>


図3:評価基板と開発キット 図4:Fusion Digital Powe Designer

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デジタルならではの成果

図5:出力電流対効率特性

次に掲げるのは Fusion Digital Power Designer で設計した 4 相電源(80A)で、数あるデジタル電源のメリットのうち動作条件によって設定を変えることができる点を活かした一例です。<図5> はその出力効率特性です。この電源は負荷が重い時(出力電流:大)は 4 相で動作しますが、負荷が軽くなるにつれて相数を減らし軽負荷時(出力電流:少)は 1 相だけが働き他は休止させています。こうすることで全体の効率は図の太線のようになり、軽負荷でも重負荷でも常に高効率/ 低消費電力を維持します。

因みに、負荷の状態によって運転相数を変える可変相のアイデアは簡単に実現可能に思えますが、アナログで実現することは至難です。運転する相の数(接続される LC の値)が変われば帰還ループの特性も変化しますがアナログでは帰還回路(補償器)の部品を付け換えない限り定数は固定なので、例えば 4 相時に最適化されたアナログ電源を 1 相にして動かした場合は適切な補償とはならず、安定度と応答性を両立できないからです。それぞれの運転時で最良の効率を得ることもできません。

これに対して本デジタル電源では運転する相数毎に最適な帰還特性を設定し、相数の切り換えと同時に切りかわるようにし負荷の全域で高い安定度と応答性を得ています。

電源をデジタル化することで、アナログ電源では不可能だった制御が可能になる例は上記以外にも多数あります。次世代の電源に求められる特性や機能はアプリケーションごとに異なりますが、デジタル電源は全体の性能や効率の最適化を実現する有効な手段だと言えます。

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