表面実装型部品の許容損失

データシートには電源製品の許容損失のデータが記載されています。例えば 3mm×3mm のリードレスパッケージで 1.5A 出力の LDO である TI 社の TPS74801 の場合 θJA=52℃/W 許容損失 1.92W @Ta=25 ℃といった記載がされています。しかしこの値は特定の条件下での測定による参考値で実際に使用するときにはこれだけの許容損失を実現できないことがあるので注意が必要です。

この条件で最大使用環境温度が 60 ℃の場合、125 ℃ - 60 ℃ =65 ℃ 65 ℃ ÷ 52 ℃/W=1.25W となりますので 1.5A 出力で使える最大入出力電位差は 1.25W ÷ 1.5A=0.83V となりますので、1.2V 出力の場合入力電圧は 2V 以下である事が必須となります。ではこの値は如何なる条件でも使用可能な許容損失かというと実は使用環境により大きく変化するので単なる参考値にしかならない値なのです。海外半導体メーカでは殆どの場合図 1、図 2の様な JEDEC で規定された 3 インチ x3 インチの 4 層基板の中央にチップを実装した状態で測定が行なわれています。

評価基板の断面構造 評価基板のイメージ
図 1 - 評価基板の断面構造図 2 - 評価基板のイメージ


チップの上面で発生した熱は図 3 の様にチップ自身のシリコン中を通り、チップがマウントされている金属製のサーマルパッドまで伝導されます。サーマルパッドは基板のランドに半田付けされているので熱は半田を経由して基板へ、そして主に基板中の銅パターンを伝播して拡散します。基板を拡散した熱は最終的には基板の表面温度を上昇させ、周囲空間との温度差の発生により周辺の空気を加熱し、対流により基板で発生した熱を周囲空間へと拡散します。

熱の伝播
図 3 - 熱の伝播


よってデータシートに記載されている熱抵抗 θ JA は

  • ジャンクション、パワーパッド間の熱抵抗 θ JC(伝導)
  • パワーパッド、基板間の半田の熱抵抗 (伝導) 
  • 基板内部の銅箔の熱抵抗 (伝導)
  • 基板から空間への対空間熱抵抗(対流)
の合計の熱抵抗となります。

ここで一番問題となるのは、テストした基板が 3 インチ角あるために、対空間への面積が片面当たりで58cm² あるという事で、高い実装密度が要求される場合、これだけの面積にいくら電源 IC とはいえ 1 個だけが実装される事はあまりありません。では基板の面積が小さい、あるいは IC1 個当たりのヒートシンクとして利用できる面積が小さい場合どうなるでしょう。

まず、同じ形状のアルミ板による放熱器を考えてみます。図 4 より 3 インチ角で 1mm 厚のアルミ板の熱抵抗は 8 ℃/W となります。1mm のアルミ板の場合、アルミの熱伝導率が大きい為にアルミ内部での熱抵抗が小さいので放熱器としての能力は高く同じ面積でも 4 層基板と比べると 6 倍以上の放熱能力が有る事になります。しかしこのグラフを見れば判るように、面積が小さくなると熱抵抗は上昇しています。熱は板の表面から周囲空間へ伝達され拡散するので、放熱散能力は表面積に大きく依存し面積が小さくなると熱抵抗も増加します。

アルミ板による放熱器の面積と熱抵抗
図 4 - アルミ板による放熱器の面積と熱抵抗


3 インチ角の 4 層プリント基板の場合では基板内の熱伝導は主に銅で行われます。JEDE で規定された基板では 35 µm が 2 層、70 µm が 2 層の 4 層構成なので合計しても 0.21mm しかありません。しかもエポキシ樹脂は断熱材といってよいほど熱を伝えませんので、内層の銅箔は断熱材でサンドイッチされている状態となり、アルミ板に比べると板の内部での熱抵抗が高くなります。この結果、アルミ板にくらべると熱抵抗が非常に大きくなります。基板内を伝導して拡散した熱は、最終的には表面から空間に伝達され、拡散するのはアルミ板と同じなので、面積が減少するとやはり放熱器としての能力も同様に減少します。

また、基板自体が大きくても、基板を放熱器として利用している以上、空間への熱の伝達能力は基板でのその IC 周辺の占有面積に大きく依存する事になります。データシートに記載された放熱能力を確保するには IC の周辺に 3 インチ角の占有面積が確保され、近くに別の熱源がない事が必要となります。面積が確保できない場合や、近くに熱源があり熱の拡散が阻止される場合は、許容損失の能力を低めに見積る必要があります。

また、基板自体の設計により熱抵抗は大きく変わります。特に実際の基板ではベタの銅箔は GND だけの事が多く、他の電源パターンや配線層はパターンにより寸断されており、熱の伝播が阻止されている事になります。また、電源IC は発熱するという事で熱に注意して設計されますが、電源IC が効率 80% の変換効率だとすると、電源IC で発生する熱はその基板での発熱の 20% だけです。残りの 80% は負荷となった半導体で消費されて熱となります。基板を放熱器として考える場合、これら全ての発熱に対して基板の面積が充分にあるかという観点で基板のサイズを考える必要があります。

なお、今回の説明では基板からの放射冷却は考慮していません。放射冷却は絶対温度の 4 乗に比例する関数となり、環境温度と基板温度、特に基板の面内の温度分布、さらには表面材質による放射効率の変化でも放射熱量は変わるので、非常に複雑な計算が必要となります。しかし放射冷却を入れずに伝導と対流だけで計算しておくと、放射冷却の分がマージンとなります。計算上は温度余裕がなかったとしても、温度の 4 乗で増加する放射冷却により、実機では直線的に温度が上昇しないで上昇率の低下により限界温度に到達しない場合もあります。熱設計は様々なパラメータが絡んで完全なシミュレーションを行なうのは非常に困難で、最終的には実機での熱評価が非常に重要となります。

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