電源IC に何故、位相補償が必要なのか Part2

前回に引き続き、負帰還回路で発生する発振の話として OP-AMP の位相補償と負荷容量による位相遅れと発振。出力コンデンサによるリニアレギュレータで発生する位相遅れと発振を防止する為の位相補償と出力コンデンサの種類と特性による発振との関連について記載します。

OP-AMP での負帰還回路で発生する発振

汎用 OP-AMP である UA741 の周波数―ゲイン・位相特性は 図3 のようになっています。信号周波数が高くなるほど回路での遅れ時間による位相遅れが発生しますが位相補償回路を内蔵しておりゲインが 1 になる周波数での位相遅れが約 105 度で、まだ 75 度の位相余裕があります。裸ゲインの非常に高い OP-AMP を特定のゲインで使用する為に図 4 の様な外部抵抗によるゲイン設定が行なわれます(非反転増幅の場合)。しかしこの OP-AMP の出力に容量性の負荷が接続されると、出力電圧は負荷容量の充放電による遅延が発生し、帰還する電圧は位相遅れを発生し、位相余裕が無くなると発振してしまうことになります。



OP-AMP とリニアレギュレータの比較 では OP-AMP を参考にしてリニアレギュレータの特性を考えてみます。ゲインが 4.149 倍の非反転アンプを作り OP-AMP の+入力に VIN=1.205V の直流電圧を入力すると OP-AMP は Vout=1.205x4.149=5.0V を出力します。この電圧は OP-AMP の負荷のインピーダンスにもよりますが UA741 では 20mA 程度まで出力可能ですから、負荷の抵抗が 250Ω~∞Ω の間で出力 5V を供給可能な電源IC となります。ではリニアレギュレータはどうなっているかというと一般的なリニアレギュレータの回路、図5 を変形すると 図6 となります。これは 図3 の OP-AMP に上側だけの電流ブースターを付けた回路ととなり、リニアレギュレータとは下側のシンク(吸い込み)トランジスタを取り除いたソース(供給)トランジスタのみを持った数 100mA から数 A を出力可能なパワー OP-AMP の一種ともいえることになります。



ただし、OP-AMP と電源IC で異なるのは、OP-AMP の場合扱う信号の速度は OP-AMP の能力範囲内の設計した動作範囲内の周波数帯域なのに対して、電源IC の場合は負荷電流の変化速度は負荷である電子回路の速度に依存し、負荷が CPU などでは数 100MHz の速度で電流が変化します。当然ながら電源回路の負帰還制御の制御帯域はそこまで高速ではないので負荷変動の速度には追従出来ません。電源回路が応答できない高速電流変動は電源ラインのパスコンや電源回路の出力コンデンサで吸収して、電源回路としては平滑された平均電流で出力制御を行うことになります。この結果、電源IC の出力には必ず出力コンデンサが必要となりますが、必要な容量は負荷の電流が mA から A の単位となるので数μFから数千 μF という大きな容量のコンデンサが必要となります。

リニアレギュレ-タ電源での負帰還回路

OP-AMP が負荷容量によっては発振してしまうのと同様、パワー OP-AMP として動作しているリニアレギュレータも、制御トランジスタの抵抗としての動作と出力の大容量力コンデンサによる RC フィルタにより発生する位相遅れにより発振する可能性があるということになります。位相遅れの合計が 180 度になると負帰還が正帰還となってしまい発振してしまうことになりますが、位相が 180 度遅れても、その周波数でゲインが 0dB 以下であれば発振しないので、この周波数に達する前にゲインが 0dB になるように高周波でのゲインを落としてしまえばよいことになります。しかし、高域のゲインが無い=応答速度が遅い回路ということは、負荷の電流変動により発生する出力電圧のアンダーシュートやオーバーシュートが大きく、長く発生するということになります。この様な設計を行なった電源IC は負荷変動に弱い電源となってしまいます。

電源としては出来るだけ高速に応答して設定電圧を保持できる事が望ましいので、スピードアップコンデンサによる進角補正により位相遅れを補正し、出来るだけ高域まで周波数特性を伸ばそうとしました、しかしいくら進角補正を行っても OP-AMP 自体の動作速度による位相遅れにより高周波数領域ではやはり合計の位相遅れの増加が問題となります。この問題を助けていたのが電解コンデンサやタンタルコンデンサなどの ESR(等価直列抵抗)の高い出力コンデンサでした。これらのコンデンサの等価回路は 図7 の様にC+L+Rとなっており、この ESR によりコンデンサのインピーダンスが(1/2πFC)が ESR に等しくなる周波数以上では抵抗の方が大きくなる為に RC フィルタによる位相遅れが 図8 の様にこの周波数以上では位相遅れが減少します。
例えばタンタルコンの ESR は0.1Ω以上有りますが 10uF の 160KHz でのCのインピーダンスは 0.99Ω となりこれ以上の周波数では C 成分の影響は減少してゆき、ESR による R 成分が主体となります。この結果 C 成分による位相の遅れが減少して OP-AMP で発生する位相遅れを相殺する事により高域まで安定して動作させる事が可能となっていました。2000 年前後までに設計されたリニアレギュレータが ESR の高いタンタルコンデンサを使用していたのはこの位相の進みを利用して高域までの応答特性を確保していたのです。



ところが 2000 年頃から大容量の積層セラミック・コンデンサが登場してきました。この高い ESR が有る事が前提で設計されたリニアレギュレータの出力コンデンサを同容量のセラミック・コンデンサに置き換えると、セラコンの ESR が 5mΩ 程度しか無いために位相の進角する周波数が何倍も高い周波数となるので OP-AMP の位相遅れを補正出来なくなり、発振してしまう事態が多発しました。2000 年代当初にこの問題が大きくなり、それ以降に設計されたリニアレギュレータは、出力コンデンサのESRに頼らず、OP-AMPを高速化するなど制御系を高速化するなどにより高域までインピーダンスが低下し続けるセラコンにマッチングする内部位相補償の設定を持ったリニアレギュレータとなっています。

注)単に高域ゲインを下げて応答特性を犠牲にして安定度を確保しているタイプのセラコン対応のリニアレギュレータも有りますので、現在販売されているセラコ対応のリニアレギュレータOが全て高速応答と言うわけでは有りません。

次回は降圧型 DCDC コンバータの位相補償の話となります。

(Part 3/3 に続く)

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