電源IC に何故、位相補償が必要なのか Part3

LDO では出力のコンデンサにより位相遅れが発生しますが、インダクタを持つ DCDC コンバータではどうなるでしょうか。ここでは降圧コンバータを例に考えてみます。

PWM 制御の降圧コンバータでは入力電圧を FET スイッチによりパルス幅制御によるデューティ比制御されたパルス状の電圧を作ります。このパルス状の電圧を LC フィルタにより平滑して直流にしています。平滑された直流電圧を負帰還して PWM 制御回路に入力して出力電圧を一定値になるように制御しています。

PWM 制御によりパワーを制御している部分から出力コンデンサの電圧までの応答特性を考えて見ると、PWM による電圧変化信号はインダクタの電流増源へと伝達され、インダクタの電流の増減は出力コンデンサでの充放電による平滑動作による電圧変動へと伝達されます。このパワー段からインダクタへ、そしてコンデンサへと伝達される信号は L と C による遅れを発生します。 LC フィルタの信号伝達遅延を信号の位相特性で見ると、丁度 LC フィルタのカットオフ周波数以下と以上で位相遅れが大きく異なります。カットオフ周波数以下では位相遅れはほとんど発生しませんが、カットオフ周波数以上ではLにより電圧―電流への変換による 90 度の位相遅れの発生とCによる電流―電圧変換による更なる 90 度の位相遅れにより、合計 180 度の位相遅れが発生する事となります。(理想Lと理想Cの場合で実際には浮遊容量成分、インダクタンス成分、抵抗成分により 180 度より少し少なくはなります。)LCだ けで信号の位相遅れが 180 度発生しているので、カットオフ周波数以上の周波数の成分で負帰還制御を行おうとすると、 180 度位相遅れ+負帰還(逆相の帰還)で合計360度遅れとなり、負帰還電ではなく正帰還となってしまい、回路は発振してしまう事になります。 LC フィルタのカットオフ周波数以下の周波数の信号では位相遅れが発生していないので経路での信号遅延だけとなるのでこの信号を負帰還しても発信する事は通常ありません。LCDの場合は負帰還制御におけるループの中にRCによる 90 度遅れ要素しかなかったので制御遅延などのその他の遅れを45度程度に抑えられれば発振しませんでしたが、 LC フィルタを持つ DCDC コンバータではフィルタだけで 180 度の遅れを発生してしまっています。



このような特性を持つ LC フィルタをループの中に持つ DCDC コンバータを安定に動作させる一番簡単な方法は、位相遅れが発生する LC カットオフ周波数でゲインを 1 以下にしてしまう事です。位相が 180 度遅れる周波数以上では、ゲインが 1 以下となるので正帰還を行なっても信号は収束してしまい、発振は起きない事になります。例えば DCDC コンバータでは LC フィルタのカットオフ周波数はスイッチング周波数の 1/50 程度にするので、1MHzのスイッチング周波数ではカットオフ周波数が 20KHz 程度の LC フィルタを使用しますが、 20KHz 以上で位相が180度遅れるので、 20KHz でループゲインが OdB なるようにエラーアンプの高域ゲインを制御して落としてしまうのです。こうする事によりいくら位相が遅れても増幅度が1以下なので発振に至る事はなくなります。しかし、 20KHz の周波数でゲインが OdB になると言う事はこれ以上の速度で発生した出力の電圧変動(=負荷電流の変動により発生する)に対する応答も 20KHz 以上=5usec以下の速度には応答出来なくなるという事になります。1usecなどの高速で負荷電流が変動しても制御は一切追従できず、負荷変動に対して大きなオーバーシュートやアンダーシュートが発生してしまう事になります。これでは安定化電源として+/-5%といったスペックに納まる電圧を供給できるのは負荷変動の遅い負荷だけと言う事になり、昨今の高速CPUの様に高速で負荷電流が変動する回路の電源としては使用できません。


TypeIのままでもスイッチング周波数を上昇させ、 LC フィルタのカットオフ周波数を上昇させる事により応答速度を上昇させる事が出来ますが、単なるスイッチング周波数の上昇ではスイッチング損失の増加により効率が大幅に低下してしまうのでむやみに速度を上げるわけにはいきません。そこで登場するのが位相補償回路です。高速応答型 DCDC コンバータでは LC フィルタによる位相遅れが発生する周波数領域でエラーアンプ部分にCRによる位相の進角補正回路を設けて LC フィルタによる位相遅延をキャンセルする事により位相遅れを減少させて、より高域までゲインが1以上有る周波数帯域を延ばしています。これを位相補償といい、エラーアンプ周辺のゲイン設定抵抗にコンデンサを組み合わせ、ポールとゼロを持つゲイン-周波数、及び 位相-周波数 特性を持つエラーアンプとする事により LC フィルタのカットオフ周波数より遥かに高い周波数まで制御ゲインを延ばして高速応答特性を可能としています。


Vin/Vout、スイッチング周波数と LC フィルタ構成などの条件により位相補償回路のCR時定数とゲイン設計を行う必要があり、全ての数値を計算するのは厄介ではありますが、最近は PC で動作する電源回路設計ツールにより容易に設計が可能となっています。

エラーアンプに数個の CR を追加して周波数特性を変化させる事により基本的な電源回路の構成はそのままで、小さなコストアップで高速応答特性の電源とする事ができますので位相補償回路は、コスト対効果において非常に有効な手段であると言えます。

 

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