さまざまな過電流制限の動作と使用上の注意点 Part1

電源回路には過負荷状態や負荷短絡事故などの発生から回路を保護するために過電流保護回路が内蔵されている事が多いのですが、過電流制限回路には電流の検出方式だけではなく、何を保護するための制限回路かによって動作方式、応答遅延時間、保護回路の解除方式など、さまざまな違いを持ったものがあります。使用する電源回路の過電流制限の動作を良く理解して使用する必要があります。Part 1~4は過電流制限が動作したときの電源ICの過渡的な動作と、電源ICはどうやって電流値を検出しているか解説します。

 

過電流制限回路の動作する電流と時間

  定格出力電流が1Aの電源があった場合、過電流制限の動作する電流は何A程度がよいでしょうか。最大負荷電流1Aに大して1Aで電流制限がかかり、それ以上は一切流れないという電流制限値の設定でよいでしょうか。もし1Aの過電流制限をもった回路に0A →1Aの高速負荷変動が発生するとどうなるかを考えてみます。電源回路の応答速度は有限なので高速の負荷変動にはリアルタイムに応答できないので図1に示すように電源回路からの供給電流IPOWERが遅れて増加する間、負荷へは出力コンデンサからの電荷放電により電流ILOADを供給するので、放電により出力電圧Voは低下します。電源の供給が増加して1Aになっても負荷電流が1A消費しているので増加した供給電流は全て負荷が消費してしまい、放電して低下した出力コンデンサの電圧を元に戻すための電流の余裕が無い為に出力電圧は下がったままとなってしまいます。

 過電流制限値>最大負荷電流で設計されている場合、図2に示す様に最大負荷電流の急速な変動があった場合のDC/DCコンバータの供給電流は、供給電流を負荷電流まで増加させるだけではなく、負荷電流以上まで供給電流を増加させて過剰な電流により放電した電荷の分だけ出力コンデンサを充電して低下した出力電圧を設定値に復帰させます。
このように電源回路は低下した電圧の回復のために、最大負荷電流以上の電流を過渡的に供給して出力コンデンサを充電し電圧を回復させ、出力電圧の復帰に伴い供給電流を絞るサーボ制御を行い、最終的に負荷電流と出力電流が同じになり、設定電圧で安定している状態となります。

 電源回路としては電圧の復帰のために過渡的に最大負荷電流より大きな供給能力を必要とします。定格最大電流の数10%は大きな電流で過電流制限が動作するように設計していないと最大負荷時の電圧復帰時間が長くなり、過渡応答特性が悪化します。しかし、負荷である電子回路は最低動作電圧の規定があるので、電源回路としてはアンダーシュートによる最低電圧が重要で、放電して低下してゆくコンデンサの電圧の低下を止めるまでが重要です。電源からの供給電流をその時の負荷電流まで増加させて電圧の低下をどこで止められるかという最低電圧点が最も重要となり、その最低電圧でも回路は動作可能なのですからその後の電圧の復帰には幾ら時間をかけても良いという事になります。
図1の状態でも回路的な問題は発生しませんので回復時間のスペックにこだわらなければ、大幅に電流供給能力に余裕を見込まなくても大丈夫です。但し電流制限回路の電流検出誤差を見込んで、電流制限の最低値の場合でも最大負荷電流以上の供給能力がある事が必須となりますので、過電流制限はTyp値ではなくMin値に注意して設計する必要があります。

電流の検出方式

過電流制限回路を動作させるには電流を検出する必要があります。高精度な電流検出を行なうには高精度な電流検出抵抗を使用し、電流×抵抗値 により発生する電圧値で電流を検出する方法とFETのON抵抗Rdsonを使用し、FETがONしている時のドレイン・ソース間に発生する電圧VDSから I=VDS=÷Rdsonを算出する方法で、いずれも電圧検出+コンパレータによる判定という形式が多くあります。
電流検出抵抗を使用すると抵抗の精度による高精度な電流検出が可能ですが、大電流の流れる経路に抵抗を挿入するので抵抗で発生する損失に注意する必要があります。検出電圧を高くすると電圧に比例して損失が増加するので損失の発生は過電流検出回路の検出能力に大きく依存する事になりますし、大電力用の高精度電流検出抵抗はかなり高価な部品でもあります。

 これに対してスイッチとして使用しているFETのON抵抗により検出する方法は追加の部品が不必要で、損失の増加もありませんのでコスト的にはメリットが大きいのですが、FETのON抵抗は大きな温度特性を持っており高温になるほど抵抗値が大きくなります。-40℃から+125℃までの全温度範囲の温度差165℃の変化を考えると抵抗値は約1.5倍になるために、同じスレッショルド電圧で過電流制限のコンパレータを動作させると抵抗値が最も低く、電流検出値が最小(つまり過電流制限値最大)の-40℃の時から+125℃までのFETのジャンクション温度の上昇によりの電流制限値は2/3の値で動作する事になります。FETを内蔵した電源ICには検出電圧に温度補正をかけてこの温度依存性を小さくした製品もありますが、FET外付けの場合はICには外部のFETの温度は測定できないのでこの温度依存性がそのまま影響するので、電流制限を高精度にしたいアプリケーションの場合には適しません。温度が上昇すると過電流制限の電流値が低下するので、高温環境下でのFETの温度上昇は抑制されるので安全性という面では問題が発生しない方向にずれる事になりますが、電流供給能力が不足して高負荷時に電圧が低下するという危険性は増します。また、低温環境では電流制限値が大きくなっているので、低温での短絡事故では大きくなった最大値まで電流が流れるので前段の電源容量に注意が必要となります。

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