JAJA689A June   2021  – August 2021 HDC3020 , HDC3020-Q1 , HDC3021 , HDC3021-Q1 , HDC3022 , HDC3022-Q1

 

  1. 1アプリケーション・ブリーフ

アプリケーション・ブリーフ

多くのアプリケーションは正確な相対湿度センサを必要とします。しかし、データシートの精度仕様パラメータは、その湿度センサが半導体メーカーから出荷された日の仕様を規定しているに過ぎません。時間の経過とともに、自然な経年変化、ストレス、汚染物質、環境相互作用など各種の要因の組み合わせの結果として精度はシフトまたはドリフトする可能性があります。時間の経過に伴う精度の低下は、家電製品、車載機器、医療機器などの寿命が長い産業および車載用製品にとって特に重要です。

相対湿度の精度の誤差の 3 つの原因

相対湿度 (RH) センサの精度には、初期精度、ヒステリシス、長期ドリフトという 3 つの主要な要素があります。センサの総合的な RH 精度を求めるには、これらをすべて考慮する必要があります。センサの電源除去比などその他の要素は、安定化電源を使用することで、または HDC3020 ファミリなどのレギュレータ内蔵センサを使うことで、その影響を軽減できます。そのためそれらの要素については本書では説明しません。

初期 RH 精度とは、半導体メーカーが湿度センサ・デバイスを出荷する前の製品テストの間のキャリブレーション直後の精度です。

ヒステリシスとは、湿度センサのメモリ効果によるものです。ここで、精度には前の RH で決まるオフセットが含まれており、そのオフセットは前の RH の値に基づいて変化します。高性能の静電容量式 RH センサは最小 ±1% (代表値) の RH ヒステリシス誤差を達成することがあります。

センサが工場から出荷された後、精度はシフトまたはドリフトする可能性があります。センサの材料特性の変化は一時的なものであるため、センサの精度のシフトも一時的なものです。RH 精度のシフトは、センサの推奨動作条件から外れた状態 (室温での高湿度など) に短時間置かれることで、または刺激の強い汚染物質 (ほこり、気相溶剤、包装材からの蒸気、接着剤など) に短時間さらされることで発生することがあります。これらのシフトは一時的なものであり、デバイスを自然に回復させることで、または少しの熱を (ヒータなどで) 数秒間加えることで軽減できます。

やがてこれらのセンシング素子の精度は、経年劣化と、極端な条件 (高湿度や高温など) または刺激の強い汚染物質 (ほこり、気相溶剤、包装材からの蒸気、接着剤など) に長期間さらされることでドリフトします。精度のドリフトは、シフトとは異なり永続的です。湿度センサを長時間高温に加熱すると (ベークするために)、極端な条件または刺激の強い汚染物質に長期間さらされたことによるドリフトを除去できます (HDC3020 湿度センサのベークおよび脱水処理の詳細については、HDC3020 ファミリ・データシート (SNAS778、SNAS817) を参照してください)。しかしセンサをフィールドに設置した後は、この方法は現実的ではありません。

通常、データシートでは、年間の精度の %RH 変動を示す長期ドリフトとして、経年変化と極端な条件に長期間さらすことの影響を規定しています。しかし、シフトの大きさは汚染物質の種類、その濃度、それにさらしている期間の影響を受けるため、この長期ドリフトには汚染物質によるシフトは含まれません。精度に 10% もの正のシフトを追加する汚染物質もあれば、負のシフトを追加する汚染物質もあります。より信頼性の高い RH センサは年間 0.25%RH (標準値) という長期ドリフト (汚染物質は未考慮、経年劣化と極端な条件のみによる) を達成しています。

湿度センサの RH 精度が仕様外にシフトまたはドリフトした場合、センサの交換またはキャリブレーションのためにそのセンサの使用を停止する必要があります。これは総所有コストを増加させます。図 1-1 に、初期精度と長期ドリフトの加算的な RH 精度誤差を示します。汚染物質がなくても、長期ドリフトのみによってわずか 6 年間で精度誤差が倍増することもあります。図 1-2 の 2 年目に示された汚染物質のイベントは、デバイスが通常 10 年間の寿命で蓄積する RH 誤差よりも大きな誤差を加えている可能性があります。

GUID-20210602-CA0I-TKSS-T9B6-LM7QCKZZPRKL-low.gif図 1-1 初期 RH 精度と経時的長期ドリフトの和
GUID-20210602-CA0I-KLB8-R1ZS-MWHZPGR6XQDB-low.gif図 1-2 初期 RH 精度、経時的長期ドリフト、汚染物質による誤差の和

本稿の残りの部分では、HDC3020 ファミリの RH 誤差を低減するための 3 つの方法 (センシング素子の最適化、保護カバー、ドリフト補正) について説明します。

RH 誤差の低減方法 #1:センシング素子の最適化

RH 誤差の最初の源はセンサ自体であるため、これが RH 誤差の低減方法の 1 つ目です。静電容量式相対湿度センサの場合、ポリマーの種類によって経時的ドリフト量が異なります。HDC3020 ファミリのドリフトを低減するため、化学的な組成と環境から受ける影響に基づいてテキサス・インスツルメンツは新しいポリマーを選択し厳格にテストしました。HDCC3020 ファミリは、センサ性能を向上させるため新しいコンデンサ設計による新しいセンシング素子も採用しています。HDC3020 ファミリ向けの新しいセンシング素子と新しいポリマーとの組み合わせにより、±1.5%RH (標準値)、±2%RH (最大値) の精度、業界最小 (年間 0.21%RH) の長期ドリフトを達成しています。そのため、長寿命を必要とする家電製品、車載機器、医療機器などのアプリケーションが製品寿命全体にわたって高い RH 精度を維持できます。

最終製品に適用できる要求精度の性能と条件をお客様が決定しさえすれば、要求を満たす RH 湿度センサが選択されるように、半導体メーカーはセンサ素子設計とポリマーを選択しています。加速寿命をモデル化するのにどのような方法を選択しても、製品寿命の間に発生する可能性がある故障メカニズムを加速するため、RH センサのテスト中にシステムにはストレスが加えられます。この方法は、過酷環境での RH センサの寿命を機能に関して予測するために使用できますが、性能を予測するために使用すると誤った情報をもたらす可能性があります。テスト中にデータシートの仕様を超過した場合 (高温時に推奨温度制限値を超過した場合など)、過度のストレス条件の結果としてセンサの性能が大きな影響を受ける可能性があります。これは、一般的な 85℃/85%RH ストレス試験の場合特に当てはまります。なぜなら、静電容量式湿度センサは 85℃まで動作するようには仕様規定されていないためです。85℃/85%RH 試験の影響の詳細については、『85°C/85% RH Accelerated Life Test Impact on Humidity Sensors』 (SLYY210) を参照してください。

RH 誤差の低減方法 #2:保護カバー

湿度センサはオープン・キャビティ・パッケージに封止されています。ポリマーを空気にさらすことで、水蒸気レベルを検出するためです。そのため、センサの保存および取り扱いには注意を払う必要があります。『HDC3 Silicon』 (SNAU265) ユーザー・ガイドでは、オープン・キャビティ湿度センサの保存と取り扱いに関する独自の指針について詳しく説明しています。保存と取り扱いに関する独自の指針に従う以外に、パッケージのキャビティ開口部を覆う保護カバーを備えた湿度センサを購入することもできます。前の HDC2080 ファミリが HDC3021 および HDC3022 RH センサで提供していた保護カバー・パッケージ・バリアントを HDC3020 ファミリでも引き続き選択できます。これらの 2 つのカバーの選択肢の詳細については、『Is a Protective Cover Needed for Humidity Sensors?』(SNAA346) アプリケーション・ノートを参照してください。

HDC3021 センサには、組み立て中の化学的な汚染を防止できる取り外し式保護テープ (ポリイミド) が貼られています。この保護テープは、デバイスを動作させる前に取り除く必要があります。本デバイスは、製造プロセス中のコンフォーマル・コーティングと PCB 洗浄が可能です。

HDC3022 センサは、ほこり、ごみ、結露、浸水に耐える恒久的な IP67 (Ingress Protection 67) フィルタ・カバー (IP67 定格の PTFE フィルタ) を備えています。一部の製品の保護ハウジングに見られる RH 応答性能の低下はありません。このカバーは、動作寿命を通じてパッケージに接着された状態を保つように設計されています。このカバーは、粒径 100nm まで 99.99% のろ過効率を持っており、以下の保護効果があります。

  1. ほこりまたは粒子が PTFE フィルタを完全に覆いセンサ・キャビティへの水蒸気の流れが阻止されるまで、ほこりまたは粒子による汚染を防止します。
  2. ある程度の結露を防止します。
  3. 水滴による飽和を防止します。

RH 誤差の低減方法 #3:ドリフト補正

経年変化によるドリフトは避けることができず、場合によっては汚染物質または過酷な環境にさらされることも避けられません。HDC3020 RH センサ・ファミリは、工場出荷時の精度仕様までデバイスを戻すために、RH センサのオフセットを (RH 動作範囲全体で一定であると仮定して) 補正するための斬新なドリフト補正機能を備えています。この機能は、オフセット誤差を主に引き起こす汚染物質 (エチレン・グリコール、MEK、IPA、酢酸ブチルなど) に効果的です。

この新しいドリフト補正機能を使用できるアプリケーションでは、RH 精度の経時シフトを減少させ、製品寿命を延ばし、コストがかかる運転休止中の再キャリブレーションまたはデバイス交換を減らすことができます。ドリフト補正は HDC3x EVM で利用できます。詳細は『HDC3020EVM User Guide』 (SNAU267) をご覧ください。EVM を使わないでこのドリフト補正機能を使う方法についての個別のデバイスに関する説明は、量産へのデバイス・リリースの前に『HDC3 Silicon』 (SNAU265) ユーザー・ガイドに追加する予定です。

まとめ

テキサス・インスツルメンツは、HDC3020 湿度および温度センサ・ファミリのセンサの寿命を通じてより高い RH 精度を維持するために 3 つの方法を採用しています。それはセンシング素子の最適化、保護カバー、ドリフト補正です。センシング素子の最適化は、センサの誤差に対応するためのものです。保護カバーは、汚染物質にさらされにくくするのに役立ちます。ドリフト補正は、極端な条件とその他のドリフト源によるドリフトを補正するためのものです。これらの 3 つの組み合わせが、極端な条件下でも業界で最も高い精度と最も小さいドリフトを達成できる湿度センサをもたらしました。HDC3020 および HDC3020-Q1 デバイス・ファミリを今すぐ確認し、お客様の製品の経時的な RH 精度と過酷環境での RH 精度を向上させるのに適したデバイスを見つけてください。