JAJA719 March   2022 TMAG5170 , TMAG5273

 

  1. 1アプリケーション・ブリーフ

アプリケーション・ブリーフ

はじめに

ロボット・メカニズムは、特定のタスクを実行するために、プログラムされた応答に基づいて動作を設定および制御しています。そのタスクは、移動運搬から安定性制御、製造および組み立て作業までさまざまです。あらゆる状況におけるロボット動作は、モーター駆動のメカニズムによって制御されます。そのメカニズムは、直接駆動されるか、またはギア・ボックス、ベルト、ねじ、ラックとピニオンなど、何らかの方法によってシステムに結合されています。

図 1-1 ロボット・メカニズム

いずれの場合も、モーター・シャフトの回転がシステムに結合されます。どのようなアプリケーションでも、モーター・シャフトの位置がシステム全体の動作とどのように関連しているかを理解することが重要です。それには、多くの理由があります。

  • 安定したシステム制御を実現する信頼性の高い位置制御
  • システムおよび付近の物体の損傷または人の負傷というリスクを低減
  • 機能の同期およびシーケンシングを改善して応答を高速化

これらの要因は、自律型移動ロボットが倉庫のフロアを走行する際の妥当性、あるいは、組み立て作業を行う 6 軸ロボット・アームの精度および再現性に影響を及ぼします。

位置情報は、モーターの整流に使用するセンサから角度を積算して取得することもできますが、安定した動作を実現するためには、多くの場合、より高い精度が必要です。必要な精度を実現するモーター・シャフトの位置検出としては、一般的に、角度エンコーディングが使用されます。

角度エンコーディング・ソリューション

モーター・シャフトの絶対角度を測定するためには、エンコーダを使ってシャフトそのものを測定する必要があります。ほとんどのロボット・アプリケーションでは、絶対位置情報が必要であり、一般的に、磁気センサまたは光学エンコーダを使って検出します。信頼性の高い動作のために、光学エンコーダは、土、ほこり、その他の汚染物質からセンサを保護する大きい筐体を必要とします。さらに、このソリューションは、モーター・シャフトと機械的に結合する必要があり、動作速度が制限される可能性があります。

磁気センシングと誘導センシングは、どちらも、これらの課題に対処できます。モーターのシャフトに磁石を取り付ければ、磁界を測定することによって角度位置を決定できます。この測定の詳細については、『ホール効果センサを使用した回転動作の絶対角度測定』アプリケーション・ブリーフを参照してください。

磁気センシング

標準的なホール効果磁気センサは、その性質上、1 次元です。ホール効果とは、荷電粒子に働くローレンツ力によって発生する電位差を測定するものです。本質的に、印加される磁界、電流、および電圧は相互に直交します。その結果、単一のデバイスで測定できるのは、3 次元磁界のうち 1 つの成分だけです。

図 1-2 ホール効果

アークタンジェント関数を使って 360 度の回転角度全体を有効に測定するためには、90 度離れた 2 つのセンシング素子が必要です。その結果として、標準的な 1 次元センサを使用した配置を 図 1-3 に示します。

GUID-20210311-CA0I-3HNC-BB71-2G3DLCV0LDCB-low.png図 1-3 1 次元ホール効果センサの配置

この方法で磁石の位置を検出することによって必要な入力が得られますが、回転する磁石のまわりに 2 つのセンサを物理的に離して設置する必要があります。最高品質の入力を実現するには、磁石に対して各センサの位置を入念に調整する必要があります。この課題に対処するために、通常は慎重な組み立て作業が求められます。表面実装デバイスは、ハンダ・リフロー時に自己整列するので、回転する可能性があります。また、スルーホール部品は、一定の高さと整列を確保するために、組み立て時にジグまたはスペーサーが必要です。ハンダ付けの際に理想的な整列が達成された場合でも、デバイスに力を加えると、リードが曲がって理想的ではない整列になることがあります。

これらの理由により、ロボットの位置エンコーダには、TMAG5170 または TMAG5273 などのモノリシック 3D ホール効果センサが最適な選択肢です。この種のデバイスは、磁界ベクトルの個々の成分を測定して報告できます。図 1-4 を参照してください。

図 1-4 磁界ベクトル

各成分を監視するとき、回転する磁石は、自然に 90 度の位相差でセンサに入力を供給します。

GUID-20201229-CA0I-HKSX-KFNK-SBRCBG7GTFLZ-low.gif図 1-5 3D 磁気入力の例

3D ホール効果センサを使用する場合、磁界の測定に使用するホール素子は、同じダイの中で相互に直交しています。その結果、わずかなハンダ付けのずれがあっても、角度位置の検出には問題ありません。これは、センシング素子が常に相互に直交しているためです。また、単一のダイに統合されたセンサを使用すると、製造時の条件が同じであるため、感度のマッチングも改善されます。

GUID-20210311-CA0I-45DM-H4B3-VMBGCCQZJBV5-low.png図 1-6 3D ホール効果センサ

整列させるパッケージは 1 つだけなので、磁石の配置はよりフレキシブルになります。シャフトのスルーホールに取り付けられたリング磁石、または標準的な円柱型磁石の端を使用できます。このセンサは、磁石の影響範囲内でアクセス可能な任意の場所に、都合の良い方法で配置することができ、コンパクトなエンコーディング・ソリューションを実現します。

GUID-20210311-CA0I-VGS6-ZMHK-BXHWHP06PK50-low.png図 1-7 3D ホール効果センサの配置

このデバイス・ファミリのもう 1 つの大きい利点は、デジタル・インターフェイス経由でマイクロコントローラにデータを送り返せることです。デジタル・データは破損しにくいので、電線を介して送信する場合に、電気的ノイズの干渉はそれほど懸念されません。巡回冗長検査 (CRC) により、すべての読み取り動作について、信号の整合性を確保できます。これにより、マイクロコントローラを離れた場所に配置することもでき、機械設計の多様性が向上します。

また、TMAG5170 は、通常動作時に自己診断を実行することもできます。内部メモリ、VCC ステータス、内部 LDO ステータス、出力ピン電圧、温度、 その他のデバイス機能の検証を行います。この機能は、デバイスの状態に関するリアルタイム情報を提供することにより、信頼性や安全性に影響を及ぼす可能性のあるシステムの動作を正常に維持するのに役立ちます。

表 1-1 その他の推奨デバイス
データシート特性設計上の考慮事項
DRV5055 レシオメトリック・リニア・ホール効果センサ

(DRV5055-Q1 車載用レシオメトリック・リニア・ホール効果センサ)

民生用 (車載用) 1 軸バイポーラ・リニア・ホール効果センサ、アナログ出力付き、SOT-23 および TO-92 パッケージで供給1 次元アナログ出力は、電気ノイズの影響を受けます。計算にはマイクロコントローラの演算が必要です。

2つのセンサが必要なので、整列は比較的困難です。

TMAG5170 SPI 搭載、高精度、3D リニア・ホール効果センサ

(TMAG5170-Q1 SPI 搭載、高精度、3D リニア・ホール効果センサ)

民生用 (車載用) グレードのリニア 3D ホール効果位置センサ、 SPI インターフェイス付き、8 ピン DGK パッケージで供給優れた磁気ベクトル感度。このデバイスは、広い範囲にわたって磁石の位置を追跡できますが、すべての入力条件が唯一の位置に対応づけられるように慎重な計画を行う必要があります。
TMAG5273 I2C インターフェイス搭載、低消費電力、リニア 3D ホール効果センサリニア 3D ホール効果位置センサ、I2C インターフェイス付き、6 ピン SOT-23 パッケージで供給TMAG5170 は、より厳格な感度公差を備えており、TMAG5273 は I2C 経由で動作します
表 1-2 関連技術資料
名称概要
多軸ホール効果センサによる角度測定TMAG5170 を使用した角度測定の詳細を示すアプリケーション・ノート
ホール効果センサを使用した回転動作の絶対角度測定ホール効果磁気センサを使用した角度測定の概要を紹介するアプリケーション・ブリーフ
TIDA-0600401D および 3D ホール効果センサを使ったさまざまな整列構成での角度精度とキャリブレーションを説明するリファレンス・デザインおよびテスト結果。
TMAG5170UEVMGUI および付属品により、高精度の 3 次元リニア・ホール効果センサを使用した角度測定機能を実現
TMAG5273EVMGUI および付属品により、3 次元リニア・ホール効果センサを使用した角度測定を実現
DRV5055EVM評価基板は、デジタル・ディスプレイを装備し、計測対象面に沿った直線上でのさまざまなセンシングを実現
TI プレシジョン・ラボ - 磁気センサホール効果とその用途を説明した一連の有益なビデオ・シリーズ